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樹木医日記

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.74〜

「フジ移植 part 1」   ( 樹木医 冨田 改 )         

噴霧前
家主様が管理するのが難しくなったため、弊社で手入れのお手伝いをしていたフジを移植することになりました。

先代のお父様がフジをこよなく愛し育てていたため、自宅のお庭は地植えのフジや、鉢植えのフジで埋め尽くされています。

お父様がご存命のころは、しっかりと管理されたフジたちがそれは見事に咲き誇っていたそうです。

花の時期は、一般の方にも公開していて、大変盛況だった伺っていす。

ご存知の通り、フジは蔓を伸ばし成長していきます。

そのスピードも速く、あっという間に幹は太く立派になります。

花も沢山付きそれはそれは見事なのですが、成長が早い分定期的な管理が欠かせません。



噴霧後
今回は、冬に移植を行うための、事前準備として
上部の枝葉の整理を行い、次に、太い根を途中で切断し、そこから新しい細根を出させるための作業を行いました。

葉からは常に水が蒸散しています。
根を切断するとその水の供給がストップしてしまいます。

根を切断する前に、蒸散を抑えるための枝葉の整理が必要なのです。

次に慎重に、傷つけないように、太い根っこを掘り出します。

掘り出した根っこを、選別し切断します。

切断し、埋め戻すことで、そこから新しい養水分を吸収する細根という根が出てくれるのです。

どうしても移植は根鉢をある程度の大きさにして運ばなくてはならないので、予めトラックの荷台に乗せ移動するための準備が必要なのです。

太い根を数本切除し、来年の2月の移植本番までに、しかっりとたくさんの根を出してくれていることを祈りつつ土壌改良材と共に埋め戻しました。

次回は冬の移植になります。
また随時ご報告させていただきたいと思います。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.73〜

「無農薬でチャドクガ防除」   ( 樹木医 高野絵理奈 )         

噴霧前
湘南グリーンサービスでは無農薬での病害虫防除にも取り組んでいます。
今回は、その中から植物皮膜剤を使用してのチャドクガの防除について、ご紹介いたします。

ご存知の方も多いかと思いますが、
チャドクガは毒毛をもっている蛾の仲間です。
特にサザンカ、ツバキなどの樹種に発生する特徴を持っています。

幼虫は細かい毒毛を全身にまとっており、その毒毛は触れると、私たちに皮膚炎を引き起こします。
直接幼虫に触れなくても、枝葉に残っていた毒毛に触れてしまうだけで、皮膚にボツボツと発疹を引き起こし、痒くてたまりません。
その痒みもなかなか取れず、薬があまり効かない人も多いので中々厄介な虫でなのす。

殺虫剤を散布し、幼虫を退治することが出来たとしても、葉や枝に残った毒毛や卵に触れてしまうと、症状が出てしまうこともあります。


噴霧後
そこで、弊社では「セルコートアグリ」という植物皮膜剤を使用することにしました。

これは農薬ではなく、のみ薬のカプセルに使用する成分を主原料としています。

原理としては粘着性のある液体を噴霧して幼虫を動けなくしたり、卵や毒毛などの痒くなる原因をコーティングしてしまおうということです。

セルコートアグリを水で希釈したものを噴霧すると、チャドクガの幼虫はまるでりんご飴のようにコーティングされ、身動きが取れなくなってやがて死んでしまいます。

毒毛もコーティングされるため、万一ふれてしまっても炎症を起こす可能性が低くなり、卵は孵化できなくなります。
適切な時期を選び、定期散布を行っているお客様のところでは、
「チャドクガの被害はほとんどなくなりました。」
とのお言葉を頂いております。

農薬を使用しての病虫害防除も必要な場合がまだまだあります。
私自身、農薬には過敏に反応してしまい、体調が悪くなってしまうことがあります。

引き続き病虫害にたいして、出来る限り農薬に頼らない方法での防除方法の知見を深め、より安心して快適に、お庭ですごして頂けように努めて参りたいと考えております。

※全ての現場でセルコートアグリを使用しての病虫害防除を実施しているわけではありません。
※セルコートアグリを使用しての病虫害防除をご希望される方はご相談ください。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.72〜

クロマツ樹木治療

藤沢にある個人のお客様からのクロマツの治療依頼があり、伺いました。

今回は、クロマツの薬剤散布治療と幹の欠損部の治療に関してのご報告です。

お客様から大切にされているマツの幹に大きなコブがあるので確認して欲しいと相談がありました。
老体に鞭打って、二段梯子を登り確認すると、確かに、大きなコブがあり、更に悪いことに
そのコブの下方に樹皮欠損を治療した後が見つかりました。

今回の治療は、コブをこれ以上大きくしないための治療と樹皮欠損部のウッディドクターによる
成形治療になります。

幹の中間部に大きなコブがあります。
このコブの原因を知るため、知り合いの大学の教授に調査を依頼し、
どのような治療が賢明かを相談しに行きました。

そこで樹皮を溝に沿って削り、そこに殺菌剤を塗布することで、菌の増殖を
抑制することにしました。


以前された樹皮欠損部の治療は、写真のようにウレタンを充填して欠損部を埋めるといものでした。
しかし、これでは、樹木が自分で樹皮を再生していく過程でうまく樹皮を巻き込むことが出来ないようになっています。

そこで、まず以前のウレタンを除去し、新たにウッディドクターをうまく成形し、マツが自身で皮を巻いていけるように
土台を作るようにします。
綺麗にウッディドクターの成形が出来ました。

今後、定期的な殺菌剤散布を行いコブの成長を抑制していきます。

また、コブの下部分に新たに支柱を設置し、台風などの揺れに備える補強を行います。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.71〜

クリーニングクロップ
 
さて、これは何をしている写真でしょうか。

何やら古木の下に種のようなものを撒いているようです。

そうです、これは樹木の根元にトウモロコシの種をまいているところなのです。


クリーニングクロップという土壌改良のための治療法があります。

今回はそのお話をさせて頂きます。
あるお寺のご住職様から古木のシダレザクラの治療をしてほしいとご依頼がありました。

確認に伺うと、立派なシダレザクラが今にも枯れそうに弱っていました。

枝先は枯れ、幹には空洞も見られ、何とも痛ましい姿で何とか生きているという感じです。

現地調査を徹底的に行い、あらゆる角度から衰弱していく原因を探りました。

外観を診断し、樹上に上り、実際の枝葉を確認しました。

四方の場所から土壌を持ち帰り検査機関に出しました。

そこで判明したのが、土壌の肥料成分過多でした。
肥料っ食いのトウモロコシ
多すぎる肥料は植物にとって、とても苦しいことなのです。

そこで、どうやって過剰な肥料成分を土壌から取り去るかが問題となります。

土を入れかえることが出来れば、簡単ですが、下手に土を掘って根っこを傷つけたりしたら

既に弱っているサクラは更に弱ることになり、最悪枯れてしまうことも考えられるので、それは絶対にできません。

そこで、行うのがクリーニングクロップです。

肥料っ食いの植物を育て、その植物に余計な肥料分を吸ってもらうという、治療法です。

ちょっと面白いですね。
トウモロコシがなりました
トウモロコシの種を蒔いたところからたくさんのトウモロコシの実がなりました。

シダレザクラの下にいきなりトウモロコシがびっしり、ちょっとびっくりする光景ですね。

たくさんの栄養を吸収して大きく育ってくれています。

このトウモロコシを育て、土壌の余剰肥料を吸収してもらう治療は、2年間行いました。
2021年10月6日
これはクリーニングクロップをする前の2021年10月6日の土壌データです。

余剰肥料成分ののところをご覧頂くと余剰窒素と余剰リン酸があるのが確認できます。

グラフも適正値の六角形の外側に大きくはみ出してしまっているのがわかります。
2022年12月6日
次に、このデータはクリーニングクロップをした後のデータになりますが、ご覧ください!

余剰肥料成分はいずれも”0”の値を示しています。

六角形のグラフも全て適正値の範囲内に収まっています。

これは、シダレザクラの土壌の余分な肥料分がなくなったということを示しているのです。
肥料過多の土壌が適正値の土壌に戻りました。

ただ、樹木はいきなり元気になることはありません。

今の樹木は前年までの養水分を樹体内にため込んで今を生きています。

これからこの土壌の中で生活していき、少しずつ元気を取り戻していってくれるのを温かく見守っていきたいと思います。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.70

ツリークライミングでの診断・治療

樹木の調査中、大きな木を下から見上げるとなんだか包み込まれているような、吸い込まれてしまいそうな、不思議な気持ちになります。

ツリークライミングでの樹木調査
今までの私の樹木医の仕事は、樹木の足元からの調査や治療をすることが主でした。

もっと大きな樹木にも貢献できるようになりたい!
そう思って始めたのがツリークライミングです。

今では随分大きな木にも対応できるようになりました。
サクラ古木 活性剤散布中
地上から見たとき、直径20cmぐらいだと思っていた枝が、実際木に登ってみると直径40cmあったりします。

細いと思っていた幹が、完全に体重を預けられる太さだったりします。

大きな木の上では全てが大きく感じられました。

木槌を使っての樹上調査中
現在はクライミングで、木槌などを使用した調査や薬剤散布などの治療を主におこなっています。

今後はより大きな木や登るのが困難な木で、高度な診断や治療が出来るようになりたいと思います。

少しでも樹木治療に貢献できるよう、日々精進して参りますので、大きな木の治療などでお困りのお客様は是非ご連絡ください。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.69〜

2022年 夏

ヤマビル (※閲覧注意 ヤマビルの衝撃的写真あり)      
 
樹木医の仕事は個人邸や公園、街路樹の樹木診断、治療、報告書作成等ですが、そのほかにも樹林、森林内の樹木調査というものがります。
ある範囲の樹林の樹木の種類、大きさ状態等調査して報告書にまとめると言った作業内容です。
最近ではナラ枯れの被害が広がっているためそれに関連した森林調査の仕事が増えてきました。
ナラ・クヌギ・シラカシ・スダジイ等、ナラ枯れ病にかかる可能性がある樹木の大きさ、状態、位置まで記録していくとなると範囲にもよりますが、何日も森の中で作業することになります。
ヒル写真
①危険生物ヤマビル
 
ここで悩ましいのは、いわゆる危険生物の存在です。
夏は蚊、蜂、毛虫、蛇などが活発に活動しますので6月~10月までは注意が必要です。
特に私が気を付けているのがヤマビルです。
神奈川県内でも秦野、伊勢原、箱根方面の森に入る時には、後でご紹介しますが、色々な対策を準備していきます。
それでもヤマビルの被害を受けてしまいます。
写真①は私のズボンの上を移動しているヤマビルです。
これは長靴の中に入り込んでいたのを見つけました。
この時はたまたま靴を脱ぐタイミングが良かったので気が付いて助かりましたが、侵入に気が付いた時には足が血だらけということになりがちです。
私も以前は会社や家に帰って靴を脱いだら血まみれだったということが何回もありました。
ヤマビルの恐ろしさは靴や服の中に侵入して吸血していても痛みやかゆみが無く、ほぼ気が付かないところにあります。

吸血痕
②吸血痕

写真②は、家に帰って服を着替えたときに発見した傷口です。
この状態でも痛くも痒くもありませんでした。
ただ、とても驚いたのと不愉快でした。
何回かひどい目にあったので、今は出来るだけ準備をして山林に入るようにしています。

服装は長袖、長ズボンは当然ですが、長靴に手袋、帽子に首には濃い目の塩水につけたタオルを巻いています。
忌避剤
③ヒル避け

写真③はヤマビルの忌避剤です。
左は食塩、右は市販のヒル避けスプレーです。
長靴の上からスプレーしておきます。

しかし、これだけ準備しても侵入は止まりません。
彼らは意外と早く足に取りつくと忌避剤が塗ってあっても長靴を登って服の隙間から侵入し、薄い生地の場合は服の上からも吸血してきます。
本当に驚きます。
蚊、蜂、毛虫等は羽音等で気が付きますし、蛇は向こうからは近寄ってきません。
ヤマビルだけはこまめに侵入さてれいないか確認しなければなりません。
まず足元に気を付けます。ヒルが這い上がってきたら塩水か忌避剤をかけて落とします。
手元にも着いていることがあります。手首など注意しなければなりません。
休憩時には出来たら服を脱いで確認した方が良いです。
なかなか難しいです。
ポイズンリムーバー、消毒薬、抗ヒスタミン剤 
④治療道具

最近では靴にくっついている段階で見つけることが出来るようになってきましたので、噛まれることはなくなってきましたが噛まれてしまったときの対策も用意しています。

ヒルに噛まれてしまったら、まず塩水や忌避剤をかけて落とします。
その際に無理やり引きはがそうとすると皮膚が傷ついて化膿や炎症の原因になります。

ヒルが離れたら傷口にポイズンリムーバーを当てて毒を吸いだします。
その後消毒して、軟膏を塗って絆創膏を貼ります。
最初にポイズンリムーバーを使うと傷の治りが早いですが、それでも1週間ぐらいは腫れや痒み、痛みがあります。
ヒルに噛まれても発熱したり重症化することはないのですが、非常に不愉快な思いをします。

ヒルは1回の吸血で15か月生きられるそうです。
すごい生命力です。
その点は敵ながらあっぱれで、嫌いになれないのです。

夏の森林内で樹木調査などの作業は、涼しい風が吹いて気持ちが良いのですが、ヤマビルには注意が必要です。
伊勢原市、秦野市などは、ヒル対策マニュアルをホームページに載せていますので、ご参考にどうぞ。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.68〜

サクラ治療
 
鎌倉山にあるお客様からサクラの治療のご依頼があり伺いました。
枝が枯れてきてしまったので見に来てほしいとのご相談でした。

確認に行くと階段の中腹にある5m程のサクラが数カ所枝枯れを起こしていました。


腐朽部
①腐朽部の確認
 
丁度真ん中の枝が折れたように枯れています。
これは以前、何らかの理由で切られた部分が枯れてきている状態です。

樹木の剪定は、サクラなどの老木やブドウやバラ等、敢えて切り残して枯れ下がってくるのを防ぐような場合を除いて、基本的に枝分かれしている分岐の所できれいに切らないと、写真の枝のように残った部分が枯れてきてしまいます。
これはスタブカット言われ、木の切り方の良くない例です。
 
 
 
 
不朽部切除
②不朽部切除

腐った部分をきれいに切り戻しました。

よく観察するとこのサクラのたくさんの枝でスタブカットされた枝が見つかり、その全てを切り戻す処置を施しました。

過酷な自然界で生きている樹木は、時に枝が折れたり、幹をかじられたり、様々な損傷を受けます。
でも、ちゃんと自身の力で回復するように仕組みが出来ています。
しかし、スタブカットのような不自然な切られ方をするとその仕組みが上手く機能せず枯れるなどの樹勢衰退につながるのです。

剪定は少なからず樹木たちにストレスを与えます。

不要な枝を取り除いたり、重なり合ったり、ぶつかり合ってしまうような枝を切ってあげることは樹木に対しては良い影響を与えることだと考えられますが、切り方を間違えると大変な悪影響を与えるのです。

いつも剪定を行う際にはこのことを心に留めていなければなりません。
癒合剤塗布
②癒合剤塗布

腐朽部を切除した後は薬を塗ります。

この薬は切除部分の乾燥させないようにすることと、カルスと呼ばれる、人間でいうかさぶたのような組織を作りやすくするようにする意味があります。

今回切断面に薬を塗布しましたが、枝や幹の内部にまで腐りが進行してしまっている部分も見られました。
次回はその部分に、これ以上進行しないようにする薬を施術するように予定しています。

一度弱ってしまった樹木を回復させることは大変難しく、これ以上悪くならないようにするという意味合いが強い今回の施術となりました。

たくさんの手間と時間を要しますが、少しでも樹木が元気になるよう、お客様に喜んで頂けるよう見続けていきたいと思います。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.67

カミキリムシ、襲来!!! 
 
最近カミキリムシの話題が2つ立て続けに出てきましたのでご紹介します。

一種目は「サビイロクワカミキリ」。
別名「エンジュキラー」!!!。
もう名前からして怖いですね。(笑)

もう一種は「クビアカツヤカミキリ」
こっちはサクラやウメ、モモなどに寄生して樹体内を食い荒らし枯死させてしまうそうです。


サビイロクワカミキリ
①サビイロクワカミキリ
 
最近福島の郡山で、日本では見られなかったカミキリムシの被害が確認されたとニュース報道がありました。

サビイロクワカミキリという外来種で、別名「エンジュキラー」。

怖い名前の通り、エンジュの木が大好きらしく、エンジュに穴をあけて侵入し、食い荒らすそうです。
入られた木は、枯死します。

クビアカツヤカミキリ
②クビアカツヤカミキリ
 
このクビアカツヤカミキリは日本中で猛威を振るっているヤバいやつです。
特定外来生物に指定さてれており、駆除対象です。

サクラやウメ、モモ、スモモ、アンズなどに寄生しやはり、樹体内を幼虫が食い荒らし、あげく枯死させてしまいます。

名前の通り胸部が赤く、身体全体は艶があるのが特徴です。
フラス
フラスが目印
 
サビイロクワカミキリもクビアカツヤカミキリも樹体内に潜入する時には幹に穴をあけます。
その時に見られるのが、写真にあるようなおが屑です。
フラスと呼ばれています。

このフラスが木の周りに落ちていたら、それはカミキリムシの被害にあっている証拠です。
もし大切な木に、このようなおが屑を発見されたら樹木医にご相談ください。
既に手遅れの場合もありますが、駆除できる場合もあります。

因みに、これらの被害を発見された方には、被害拡大防止のため最寄りの市区町村に情報提供を呼び掛けて言います。

もし大切な樹木が周りにある方は定期的に確認されることをお勧めいたします。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.66〜

ナラ枯れ対策        (樹木医 関 隆夫)
 
最近、山や森、公園、民家などの木が枯れているのをよく目にします。
突然大きな木がどんどん枯れていくので驚かれている方も多いのではないでしょうか。
 
カシノナガキクイムシがナラ枯れを引き起こしていることが原因です。
今年そのカシナガが猛威をふるっているのです。
 
弊社にはお客様より、木が枯れてしまったのでどうしたらいいかとの相談が相次ぎ寄せられています。
 
そこで今回は、ナラ枯れの殺菌剤投与による予防策についてご報告いたします。
 
 

カシノナガキクイムシ成虫
まずは簡単にナラ枯れのメカニズムをご説明しておきます。
(詳細は樹木医日記 No.59 でもご紹介しています。)
 
【ナラ枯れのメカニズム】
大量のカシノナガキクイムシが幹に穴をあけ入り込む。
メスの首のところに付着しているナラ菌が樹体内に入り、短期間で増殖する。
増殖したナラ菌が、水を吸い上げるための導管を詰まらせ、水が上がらなくなった木が枯れる。
 
以上のメカニズムを念頭に置き対策を講じていきます。
 
傾向と対策
 
【傾向】
カシナガの穿孔とナラ枯れ被害状況にはいくつか傾向が見られます。
 
・古く大きな木に入る傾向がある。
・地際から約2~3mまでの高さの間に入ることが多い。
・コナラ属、クリ属、シイ属、マテバシイ属に入る。
・クヌギ、コナラはカシナガに入られると枯死する傾向がある。
 
若い木には何らかの防除作用が働いているのか、カシナガの攻撃を受けない傾向があります。
また、老木でも樹勢の強い木はカシナガの攻撃を受けても枯死に至らないケースがあります。
カシナガに入られたクヌギ、コナラは枯れているのをよく目にします。
マテバシイやシラカシ等はカシナガに入られても枯れない木が多々見受けられます。
 
【対策】
そこで上記傾向を踏まえ、弊社では対策として
 
・クヌギ・コナラを中心に予防策を講じる
・ある程度成長した大木を中心に対応する
・殺菌剤を注入しナラ菌の増殖を抑え枯死しないようにする
 
今回使用した殺菌剤はカシナガに入られた場合でも樹体内でナラ菌が増殖するのを抑えることのできる薬剤です。
穴あけ作業
簡単にどのような治療を行ったのか見ていきます。
 
【穴あけ作業】
木の大きさから注入する薬液の量を計算し、開ける穴の数を決定します。
まずドリルで根元に穴をあけます。
この時、薬液が入りやすいように穴におが屑がはいらないようにします。
また薬液がこぼれてこないよう角度を考えて開けます。
薬液注入作業
【薬液注入作業】
 
専用の器具を使用して薬液を樹体内に注入します。
穴に管を差し込んでこぼれてしまわないよう慎重に作業します。
 
薬剤注入によりナラ菌の増殖を抑え枯死するのを防ぎます。
以上が今回のナラ枯れの対策です。
薬効は2年ほどあるそうなので経過観察を行っていきたいと思います。
 
 
カシナガは突然入り込み、あっという間に木を枯らしてしまいます。
皆様の身近にある大切な樹木は大丈夫でしょうか。
今回ご紹介した予防法もありますので、是非参考にして頂ければと思います。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.65

パキラ再生        
 
お客様より嬉しいお知らせがありました。
 
昨年半年以上かけて治療・養生し、お客様にお返ししたパキラが元気に葉を繁らせているとのご報告でした。
 
きっかけは、ご両親から受け継いだ、大切なパキラが枯れそうなので治療して欲しいとのご依頼でした。
お預かりした時のパキラ
①お預かりした時のパキラ
 
お預かりした時のパキラは写真のように、葉は全て落ち、上部は茶色に変色し枯れ始めていました。
かなり弱っていて、再生が難しいように見えました。
 
鉢から取り出し根を観察すると、細根があまりなく、根腐れを起こしている状態でした。
 
傷んだ根を取り除き、枯れた枝を切り、養生のため一時的に圃場の環境の良い場所に地植えし治療を行いました。
 
 
 
 
 
小さな葉を出したパキラ
②小さな葉を出したパキラ
 
パキラは徐々に回復しました。
小さな芽が出て、葉が一枚一枚開いていくのを見るのは感動的でした。
 
半年以上圃場で養生し、元気を取り戻したのを確認したタイミングで鉢に移し、お客様のもとへお返ししました。
 
ずっと養生してきたパキラでしたので、お客様の元へお返しする時にはとても寂しく感じたのをよく覚えています。
 
元気になったパキラ
③元気になったパキラ
 
ずっと心のどこかで元気に過ごしているかと気になっていました。
 
先日一通のメールが。
そこには旺盛に葉を繁らせているパキラの写真とお客様からの心温まる感謝の言葉が綴られていました。
 
コロナや様々な悲しいニュースが世の中を賑わわせている昨今、本当に嬉しく心が躍る出来事でした。
 
”緑は心を潤す”弊社の理念を改めて思い起こしました。
これからもたくさんの潤いを生み出していけるよう尽力していきたいと思います。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.64〜

白紋羽病温水治療        (樹木医 岸 龍宏)
 
ある工場の生垣のレッドロビンが枯れ始めました。
一部が枯れ始め徐々に広がって行きます。
 
今回は白紋羽病の温水治療についてのご報告です。
枯れたレッドロビン
①現地調査
 
レッドロビンの生垣が枯れ始め、徐々に枯れが広がっていきました。
 
抜根し根っこを調査したところ白紋羽病の菌糸が確認されました。
白紋羽病に罹患された根
②白紋羽病に罹患された根
 
抜根し根を調べると、細かい根は殆ど消滅しており、直ぐに抜けてしまいます。
 
写真の白く見える部分が白紋羽病の菌糸です。
匂いを嗅ぐとドブ臭い匂いがするのが特徴です。
 
温水治療
③温水治療
 
温水治療?
樹木の治療に温水?
ちょっと不思議な気がする方も多いかと思います。
どうするのか見当が付きませんよね。
 
写真のように等間隔に穴の開いたパイプを地面に設置しそこに温水を流すのです。
自動灌水装置を想像して頂くと分かりやすいかもしれません。
 
そうすることで熱に耐えられず菌が死滅するのです。
根っこは大丈夫なの?火傷したりしないの?とちょっと不安になりますよね。
でも大丈夫。これはれっきとした確立された治療法なのです。
 
 
温度管理
④温度管理
 
お湯を流し、40℃の温度を一定時間保ちます。
白紋羽病の菌は40℃の熱には耐えられないのですが、根っこは40℃の熱には耐えられるのです。
 
そのことを利用し安全で的確な白紋羽病の治療ができるのです。
 
人間でいうところの湯治といったところでしょうか。とても面白い治療法ですね。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.63〜

割竹挿入縦穴式土壌改良法         (樹木医 高野絵理奈)
 
今回は先日行った「竹割挿入縦穴式土壌改良法」について。
何だか難しそうな漢字が並んでいてすごい治療法のように見えますね。
中国4000年の秘儀みたいな。(笑)
 
でもご安心ください。
この治療法は至ってシンプルで一般的に昔から行われている土壌改良法なんです。
 
簡単に言いますと
 
割って節を取った竹をもう一度くっ付けて竹筒にし、土壌改良した土で埋め戻す、それだけ。
 
たまに庭園の樹木の周りに竹筒が埋め込んであるのを目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 
単純な治療法ですがこうすることで土壌の通気性、浸透性を改善でき、樹勢の回復を期待できます。
 
 
では手順を見ていきます。
 
竹を縦に半分に割る作業
①竹筒作成
 
竹を割ります。鉈で半分に割るのですが、きれいに割るのにはコツがいります。
 
次に節を取ります。金槌を使い少々手荒に節を砕いていきます。
 
地上にでる部分は土等が入らないように網を使って保護します。
 
針金とシュロ縄を使って結束し、竹筒の完成です。
 
ダブルスコップでの穴掘り作業
②穴掘り作業
 
樹木の根の周りに環状に直径20cm、深さ1m程の穴を垂直に10個ほど掘ります。
(樹の大きさや土壌の状態等で穴の数は変わります。)
 
ダブルスコップという特殊なスコップを使います。
 
太い根を傷つけないように慎重に。
万が一太い根にぶつかってしまうときには穴の場所を変えます。
石や廃材が埋まっていることが多く、大変な作業です。
埋め戻し作業
③埋め戻し作業
 
竹筒を掘った穴に入れ、その周りに土壌改良した土を入れ埋め戻します。
 
竹筒が埋まってしまわないよう調整します。
 
 
作業後
作業後の写真です。
 
針金を巻いた部分に化粧のシュロ縄を結束しました。
見栄えをよくすることも大切な作業です。
 
今回の治療は根の周りの土壌を改良し、通気性を良くするなど、根の活性を目的として行いました。
樹木は根の健康がとても大切なのです。
 
この他にも高圧縮した空気で根っこ周りの土を吹き飛ばしてそこに土壌改良をした土を戻す等、根を傷つけないようにする土壌改良方法もあります。
 
出来るだけ安全に、確実な方法で土壌改良を行い大切な樹木の樹勢回復を行えるよう今後も対応していきたいと思います。
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.62〜

木って面白い! (樹木医 岸 龍宏)
 
木のことをもっと知りたい!!という思いから樹木医の勉強を始め、知れば知るほど ”木って面白い!” にハマっていきました。
数年の勉強を経て、今年晴れて樹木医の仲間入りをさせて頂きました。
 
音波による樹木診断
樹木医の関わる範囲は広大です。
樹木の生理、生態に関すること。
昆虫、キノコ、病気などの樹木に関わる生物のこと。
天候気温、土壌、風、光など自然環境に関わること。
樹木調査や診断、天然記念物の保護に関わること等々。
数え上げたらきりがありません。
 
一人では到底解決できない問題が山ほど。
でも大丈夫。樹木医の世界には素晴らしい先輩たちがたくさんいて、お互いに協力し合い問題を解決しています。
全国的なネットワークもあります。
 
「どこどこでこんな病気が出ているよ、気をつけて。」
「薬はこんなのが効くよ。」
こんな会話が日々繰り広げられているのです。
 
先輩たちと切磋琢磨し、たくさん勉強し、成長していきたいと思います。
 
そして、これからどんどん一般の方たちにも
“木って面白い!!”
を伝えていきたいと思っています。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.61〜

続・遊行寺の大イチョウ ( コモ巻き作業編 )(樹木医 関 隆夫)
 
前回ご紹介した遊行寺の大イチョウの調査報告書を提出し、今回遊行寺様から正式に回復作業のご依頼を頂きました。
 
本格的な治療派に令和2年1月から行う予定です。
 
今回は治療までの間、開口部をシートで被い、コモを巻く作業をしました。
 
 
下地作り
①下地作り
 
防腐剤入りの木材や支柱を用い、下地を作成しました。
芯を作り、それに横板を張り付けていきます。
足場の悪い高所作業なので転落や転倒が無いよう上方の枝から親綱をつけ安全帯をつないで慎重に作業しました。
シート張り
②シート張り作業
 
開口部の頂点から、根巻きに使用する緑化シートをタッカーや釘で固定していきます。
 
これは、治療ではなく、あくまでお正月に向けて傷口を隠すための一時的な作業です。
 
ロープワークを駆使し作業していきました。
コモ巻き
③コモ巻き
 
藁を編んだシート状のものを幹に巻きつけていきます。
凹凸があり、綺麗に巻くのに苦労しました。
 
コモを巻いた後、素縄で縛りしっかりと固定します。
完成
今回のご依頼は治療までの間、開口部を保護し景観を良くするために一時的にシートやコモを巻くというものでした。
 
コモを巻かれたイチョウはご神木らしく、さらに荘厳な雰囲気を醸し出したように感じます。
 
本格的な治療はこれからです。
またご報告したいと思います。
 
 
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.60〜

遊行寺の大イチョウ (樹木医 関 隆夫)
 
藤沢にある遊行寺から、台風19号の影響で大イチョウの大枝が落ちて幹が裂けてしまったとご相談があり調査に伺いました。
 
このイチョウは地域の方々に愛されて、大切にされてきたイチョウで市の天然記念物にも指定されています。
 
 
 
 
大イチョウ
①現地調査
 
北側の大枝が折れ、幹が縦に裂け、見るも無残な状態でした。
 
樹齢700年とも言われるこの大イチョウですが、1982年(昭和57年)の台風により、高さ31mあったものが地上6m付近で幹が折れてしまったことがあるそうです。
この時、すでに幹の内部は空洞になっていたそうです。
 
この空洞があることにより大枝を支えることができずに折れ、幹が裂けてしまったのでしょう。
現地調査
②樹木調査
 
高所作業車を使い幹の上部に接近し調査しました。
開口の大きさ、空洞の深さの確認、打音診断などを行いました。
 
 
不定根
③幹内部の状態
 
幹の内部は空洞になっているのですが、そこに無数の根っこが地面に向かい伸びていました。
これは不定根と呼ばれています。
 
 
今回のご依頼は、イチョウの状態を確認し、どのような処置を施せばよいか、今後の対策を考え提示してほしいということです。
 
これ以上弱らせることなく、処置をすることで、これからも末永く生き続けることができるようにするのです。
 
調査しながら、樹木医同士いろいろな方法を意見交換し、適切な処置の仕方を考えました。
 
 
2014年 秋
この写真は枝折れの発生する前、2014年秋の写真です。
 
黄葉した葉をたくさん茂らせ、一見とても元気なように見えます。
イチョウは芯の周りにある皮の部分で養水分を吸い上げ生きています。
ですから幹の中心が腐ってしまっていても元気に葉を茂れらせることが出来るのです。
 
しかし、この時は既に樹体内は空洞で強度的には弱くなっていたと考えられます。
 
老木は特に一見元気なように見えてこのような芯材が腐朽している場合があり、何かのきっかけで突然折れたり倒れたりすることがあるので危険です。
 
危険を回避するためにも樹木調査は樹木医の大切な仕事の一つと言えます。
 
 
遊行寺のシンボル的な存在として愛されてきたこの大イチョウ。この写真のような美しい姿をもう一度見ることができるよう、精一杯対応させて頂きたいと考えています。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.59〜

カシノナガキクイムシについて (樹木医 関 隆夫)
 
藤沢市内にある工場の管理会社から「敷地のコナラの木が4本急に枯れてしまった。カシノナガキクイムシが原因かもしれないので見てほしい。」と依頼がありました。
 
行ってみると15mもあるコナラの木の葉が7月なのに茶色くなっています。
根元近くの幹からは大量の木くずが出ています。
これはカシノナガキクイムシによる被害のようです。
今まで神奈川県内ではあまり被害情報は出ていませんでしたが、とうとう身近なところに被害が出てしまいました。
 
そこで今回はカシノナガキクイムシの被害状況と、そのメカニズム、処分方法についてご報告します。
 
 
 
立ち枯れしたコナラ
①現地調査
 
現地に確認に行くと林の中で15m程もある大きなコナラが枯れています。
どれも、立派な枝ぶりで、見た目には幹や枝が傷んでいるようには全く見えません。
 
ただ、枝先の葉っぱは茶色に変色し、明らかに枯れています。
 
フラス
②根元にフラスを確認
 
幹のそばに近づき幹の状態を確認すると、根元に大量のフラス(穿孔虫が開けた穴から出た木くず)が見られました。
立ち枯れした4本全てに同じようにフラスがでていたのです。
 
幹の地際から高さ3mぐらいの間に無数の穴が開いており、そこから木くずがところてんを押し出すようにニョロニョロ出ているのが見られます。
 
これは間違いなくカシノナガキクイムシの仕業です。
 
 
カシナガの穿孔
③ナラ枯れのメカニズム
 
カシノナガキクイムシが幹に入ることにより、このような大木がどのように枯れるのか、そのメカニズムを少しお話します。
 
このカシノナガキクイムシによる立ち枯れは『ナラ枯れ』と呼ばれています。
 
カシノナガキクイムシ、(通称カシナガ以降カシナガと呼ぶ)は「ナラ菌」と呼ばれるカビの仲間の病原菌を運びます。
 
カシナガは木をかじって穴をあけた坑道の中にその共生菌(酵母類、病原菌とは別種)を繁殖させ、それを餌として幼虫が育つのだそうです。
(このような生態から菌を育てるキクイムシなので養菌性キクイムシと呼ばれます。)
 
沢山の穴が開くのは、カシナガはフェロモンを出して仲間を呼び寄せるので、集まってきたカシナガによりさらに大量の穴が開けられるからです。
 
大量のカシナガは大量のナラ菌を樹体内に繁殖させます。それにより樹幹の水分通道機能が悪化し急激に枯死するのです。
 
このメカニズムはマツノザイセンチュウによる松枯れのメカニズムによく似ています。
 
燻蒸処理
④ 燻蒸処理
 
では最後に、このようにカシナガによって枯れてしまった木はどのように処分するのかお話しします。
 
カシナガは枯れた樹幹内で越冬し、翌年幼虫は成虫になり飛び立ち、付近の健全なナラ類、カシ類等の木に穿入します。
 
そのため、枯れ木をそのまま残しておくとその被害はどんどん広がっていくことになるのです。
 
ですから、その木に入ったカシナガをその場から完全に取り除かなくてはなりません。
 
カシナガが出ていく前に伐採をし、焼却処分します。
 
切り株にもカシナガが入っている恐れがあります。
15mクラスの木の切り株を掘り上げるのは容易ではありません。
そこで、薬品を使い燻蒸処理を行います。
燻蒸処理とは、切り株に切り込みを入れそこに薬品をかけ、ビニールで覆い、気化した薬でカシナガを殺虫処理することです。
 
皆さんの周りに、このように大量の木くずを出して枯れてしまった樹木はありませんか。
もし心当たりがあれば、樹木医に相談して頂くことをお勧めします。周りの木々に伝染して、大切な樹木がどんどん枯れてしまわないように、カシナガを皆で防ぎましょう。
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.58〜

クスベニヒラタカスミカメ
クスベニヒラタカスミカメについて (樹木医 冨田 改)
 
今回は最近流行しているクスノキの害虫について。
 
皆さんの周りに葉っぱが沢山落ちてしまっているクスノキはありませんか。
 
写真のようにたくさんの葉が8月~9月にかけて落葉してしまっています。
本来クスノキのは季節が変わる晩春から初夏にかけて葉を落とします。
今の時期に落葉するのは何かしら問題があるのです。
 
 
クスベニヒラタカスミカメの害を受けた葉
今回のクスノキの落葉はクスベニヒラタカスミカメというカメムシの仲間が原因です。
 
中国原産の直径1cmに満たない小さなカメムシで、関西地方から広まってきました。
今回見つかったこのクスノキは川崎にあり、関東地方でも害は広がりつつあります。
 
この時期に落葉してしまうと、木は新たに光合成で養分を作り出すために新葉を出します。本来葉を作る時期ではないに頃に葉を出すために無駄な体力を使うことになります。
これを繰り返すと木は徐々に弱っていくのです。
 
対応としてはこのカメムシを駆除するための薬剤散布を行います。
 
地球温暖化など様々な気候変動が起こっている昨今、日本では生息できなかった虫や植物が生き続けることができるようになってきました。それに伴い今まで経験したことのない現象が樹木たちにも襲いかかっています。
 
原因の解明から対症療法を行うだけでなく、本来あるべきの地球環境の維持を行っていけるよう日々の生活を見直さなくてはならないのかもしれません。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.57〜

コフキタケ
コフキタケについて (樹木医 高野 絵理奈)
 
先日お手入れに伺ったお客様のお庭のクスノキにキノコを発見しました。約50センチほどの高さについていました。
 
キノコは生きた木に発生するキノコと枯れた木に発生するキノコの2タイプあり、今回発見したキノコは生きたクスノキに発生していました。
 
形や特徴からコフキタケと思われます。
 
ベッコウタケに似ていますが初夏から秋季に大量の胞子が放出され、傘の上面にも積もりココアパウダーを吹いたようになるの特徴です。
 
 
 
 
 
 
コフキタケ
先ほど生きた木に発生するキノコとお伝えしましたが、このタイプのキノコは少し注意が必要です。
 
枯れた木に発生するキノコは枯れ木を分解し土に返す分解者としてとても有効に働いてくれています。ところが、この生きた木に発生するキノコは樹勢を弱らせ、倒木などを引き起こす原因にもなります。
 
また、キノコが発生しているということは、実は木の内部では菌糸が充満している証拠なのです。
そして残念なことに、現在その樹体内に充満してしまった菌糸を取り除くための有効な手立てはありません。
 
今回、このクスノキに付いていたコフキタケは取り除き、経過観察を行っています。
 
実際の対処法としては、キノコが成長しにくい環境を作り出すことがそれ以上の腐朽を起こさせない最善の策と考えられます。
 
皆さんのお宅にも大切な樹木があるかもしれません。
キノコは発生していないでしょうか。
一度ゆっくり確認してみるのもよいかもしれません。
もし発生していたら、ご相談ください。
ご一緒に対処法を考えさせて頂きたいと思います。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.56〜

かながわの名木100選について (樹木医 関 隆夫)
伊勢原大福寺のクスノキ 樹齢400年
 
 
 
かながわの名木100選とは、各市町村から推薦された2000本を超える樹木の中から、
 
①単木であること。
②古木、巨木、姿が優れているなど特色のあるもの。
③地域の人々に親しまれ、守られているもの。
 
という3つの基準で選ばれた100本の樹木です。
1984年(昭和59年)に選定されました。
 
私は、自分が調査に係った樹木の中で、とても好きになった木があり、それが名木100選に入っている木だったことから100本すべて見てみたいと思うようになりました。
時間を作っては訪ねてはいるのですがまだ全部は見られていません。
それに季節によって見える姿が違うので落葉樹は夏と冬の2回は見に行きたいですし、サクラやツバキは花が咲いている時期に行ってみたいです。
また、弱っているように見えた木は経過が気になります。とりあえず現在見に行けるものは1回訪ねてみてその中から気になるものについては再度見に行きたいと思います。
古木、巨樹といわれている樹木は圧倒的な存在感があり、とても魅力的です。
それらの樹木が衰退して無くなってしまうのはとても残念ですが名木100選に選ばれている木でも維持管理は所有者が行うのが原則となっており、たとえ弱ってきたとしてもどうにもできない場合があるのが実情です。
それも仕方がないことだとは思いますが私が非常に残念に感ずるのはいつの間にか消えてしまっている木があることです。
樹木医会神奈川県支部では2006年(平成18年)に100本の調査を行いましたがその時にはすでに10本が滅失していたそうです。
 
最近、私が訪ねた中でもさらに数本が無くなっていました。
滅失した樹木にはどうして無くなってしまったかの記録が残ってないので、せめて衰弱してゆく過程を観察して記録として残すべきです。
それには定期的な調査が必要だと思いますが私個人としてはお気に入りの木を訪ねていきたいと思います。
 
最後に私が気に入っている木を3本紹介します。
伊勢原大福寺のクスノキ 樹齢400年
 

気になる木①

伊勢原大福寺のクスノキ 樹齢400年

とにかく太い枝が落ちて、幹が空洞でも枝を伸ばし続けているのがすごい。

 

鶴巻の大ケヤキ 樹齢600年
 

気になる木②

鶴巻の大ケヤキ 樹齢600年

県内で一番太いケヤキらしい。かなり傷んでいるが頑張っている姿が素敵。

 
篠窪の椎の木森のシイ 樹齢520年

気になる木③

篠窪の椎の木森のシイ 樹齢520年

道路に競り出している姿が圧巻。幹に空洞があり、いつ倒れても不思議でない。鉄骨で倒木予防を立てているが心もとない。 篠窪の椎の木森にはこの椎の木以外にも巨木がたくさんある。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.55〜

続・カイガラムシ対策について (樹木医 高野 絵理奈)
 
今回は前回行ったカイガラムシ対策の経過報告について。
 
先日5/20に再びモチノキに薬剤散布を行いました。
その際にモチノキがどのような状態になっているか確認してきましたのでその報告です。
 
まず前回の作業確認、前回は
 
・現状分析 → テデトール(手で取ーる) → 薬剤散布
 
を行いました。
 
求められる結果は、カイガラムシの減少、スス病の改善でした。
 
ひと月たってどうなったでしょうか。
ルビーロウカイガラムシとスス病
①カイガラムシとスス病の改善状況
 
枝先にまだ少しカイガラムシが見えますが、前回のテデトール・薬剤散布の効果がみられ、大分少なくなりました。
枝にびっしりカイガラムシがついているという状態はひとまず脱しました。
 
スス病に関しても、真っ黒なススがペースト状に枝葉についている状態のものは見られません。
悪化したり新たに生じたものは無いようです。
 
カイガラムシ・スス病を完全に取り除くのは難しいですが、確実に効果が出ていると感じました。
 
 
芽吹き
②芽吹きの状況
 
前回の樹木医日記には明記しませんでしたが、薬剤散布等の作業をする前に、風通しを良くし光を入れる目的で枝抜きを行いました。
 
その効果も見られ、たくさんの新芽が吹き、新しい葉を広げていました。
 
風通しを良くすることで病害虫の住みにくい環境を作る、込み合った枝を抜くことで、枝や幹に光を当てて芽吹きを促すことができます。
 
今回出た新梢を大切に育て、新たにカイガラムシやスス病を発生させないように対応していければ、より一層の樹勢回復も望めると考えられます。
 
 
タイワントガリキジラミ
③新たな宿敵(タイワントガリキジラミ)の出現
 
葉の裏がぶつぶつクレーターのように穴が開き、茶色に変色したモチノキの葉を見たことはありませんか?
 
近年急激に増殖していると思われる虫がいます。
台湾周辺から入ってきたタイワントガリキジラミです。
 
タイワントガリキジラミはモチノキなどの葉に卵を産み、幼虫が葉を住処にし、食害します。
見た目悪く、大量に発生すると樹勢も弱ります。
 
何と、このタイワントガリキジラミの幼虫が葉の裏から見つかったのです。新たな敵の出現です。
 
やっとカイガラムシ対策で改善が見られてきたのに・・・。
やはり、樹勢が弱っていると病害虫を寄せ付けてしまうのでしょうか。
カイガラムシ・スス病が減少し、芽吹きも多く、改善が見られました。
対応に当たった担当者全員、ホッしたのと同時に大変嬉しく思いました。
 
今後も樹勢回復が少しでも促されるよう取り組んでいきたいと思います。
 
新たな敵、タイワントガリキジラミとも対峙しつつ、絶対に元気にしてやるぞ!と強い気持ちを持って、皆で寄り添っていきたいと思います。
 
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.54

カイガラムシ対策について(樹木医 高野 絵理奈)
 
今回はカイガラムシ対策について。
 
お客様から大切にしているモチノキのが真っ黒になっているので何とかしてほしいとのご相談を受けました。
 
確認すると枝という枝にカイガラムシがびっしり。
その影響でスス病を併発、モチノキが真っ黒になってしまっていました。
 
カイガラムシはその名の通り、自身の出す分泌物で殻をつくり、その中で成虫が生活しています。(※殻を持たない種類もいます)
ですから、通常の薬剤散布を行っても、ロウ物質の殻で守られているため薬が効きにくく、なかなか思うように退治できないのが特徴です。
では、どのようにこのカイガラムシに対処するのでしょうか!
今回行った対処法を見てみましょう。
 
 
ルビーロウカイガラムシ + スス病
①確認作業
 
枝先に見えるツブツブがすべてルビーロウカイガラムシ。
このツブツブがほとんどの枝先についています。
 
カイガラムシの出す分泌物が原因で、スス病という病気を発生させます。幹・枝・葉っぱの表面が真っ黒。これでは十分な光合成もできず、樹勢も弱っていきます。
テデトール
②カイガラムシ除去
 
カイガラムシは堅強な殻をまとっているため、単純に薬剤散布を行っても薬が効かず退治しにくい害虫です。
 
そこで活躍するのがテデトール!
聞きなれない言葉だと思います。
殺虫剤の名前ようにも聞こえますね。
いえいえ違います、『手でとーる」です。
そう、手で取るんです。笑
 
一本一本の枝を丁寧にしごいて、カイガラムシとスス病を取り除いていきます。なかなか途方もない作業です。
でもこれが一番効くんです。
 
薬剤散布
③薬剤散布
 
綺麗になったところで薬剤散布。
取り残しや、今後新たに発生するであろうカイガラムシに対して対応します。
今回はハンドスプレーを使用し、丁寧に、確実に薬液を葉先まで吹きかけます。
 
何としてもモチノキを元気にしたい、その思いが丁寧な仕事の原動力になります。
今回行ったカイガラムシ対策はカイガラムシ対策としてはよく知られていますが、手間と時間が大幅にかかるため高木に対しては、よほど大切にされている樹木以外に行われることは稀です。
 
そして、確実に思えるこの方法でもカイガラムシを100%取り除くことは困難です。
 
ですから、今後はよく観察し、カイガラムシの生理を理解し、適宜薬剤散布を行ったり、再びテデトールを行ったりして減らしていくことが必要です。
 
絶対に元気にしてやるぞ!という熱い思いを胸に今後も対応していきたいと思います。
 
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.53

マツの菌根菌治療について(樹木医 冨田 改)
 
今回はマツの菌根菌治療についてお話します。
 
知り合いの植木屋から、最近手入れに伺うようになったマツの調子が悪いので見に来てほしいとの依頼がありました。
確認に行くと、下枝が枯れていました。虫が入った様子はなく、葉枯病の症状がみられました。
多方面から考察し、根に原因があるのではないかと考えられ、土壌改良、菌根菌の治療を行うこととしました。
 
 
下枝の枯れたマツ
①確認作業
 
掘ってみると案の定、たくさんの固形肥料が埋まっていました。
マツは肥沃な土壌を好まない樹木です。海辺の砂地に多く生息するのもその理由です。
肥料を除去し埋め戻しました。
土壌改良
②土壌改良
 
既存の土を根鉢に沿って帯状に掘り、細炭を入れます。
その後、菌根菌という菌類を細炭の上に撒きます。
マツは菌根菌という菌類と共生しており、菌根菌の働きがマツの健康にも大きな影響を及ぼすのです。
 
菌根菌治療
③菌根菌治療
 
細炭の上に数種類ブレンドした菌根菌を撒きます。
マツとの共生が促進され、根の動きが活性化されることが期待されます。
 
 
今回はマツの菌根菌による治療を行いました。
 
前回のエアスコップによるサクラの土壌改良もそうでしたが、根の状態が健全であることが樹木にとってはとても大切なことです。根の状態は掘ってみないとわからない部分なので、枝、葉の状態をよく観察し、知識と経験から治療方針を決めていきます。
 
今回の治療により、樹勢を回復してくれることを願い、経過観察していきたいと思います。
 
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.52〜

サクラの土壌改良について(樹木医 冨田 改)
 
先日、藤沢にある幼稚園のサクラの土壌改良を行いましたので、そのことについてお話したいと思います。
 
このサクラは幼稚園の正門の横に植えられていて、園児のことをずっと見守ってきた大切なサクラです。
そのサクラの枝枯れが多くみられるようになり、何とかしなくてはと依頼を受けました。
 
診断の結果、土壌が固く根の育成に支障をきたし、サクラ自体の健康を損ねているものと考えられました。
そこで既存の土を除去し、土壌改良を施し、発根を促す治療を行うことにしました。
 
 
①既存土壌の除去作業
①既存土壌の除去作業
 
・根を傷めないよう、エアースコップと呼ばれる空気を送る機械を用い根っこ周りの土を吹き飛ばします。
 土埃がすごいので、周りを防風ネットで囲い近隣に迷惑のかからないよう配慮をします。
 
土壌改良
②土壌改良
 
既存の土と土壌改良剤を混ぜ、根回りにまき埋め戻します。
今までカチカチの土壌が、柔らかく発根しやすいサクラに優しい土壌に変わりました。
囲い設置
③囲いの設置
 
周りの園庭に比べ格段に柔らかくなったサクラの根回りに囲いをして、園児が入らないようにします。
園児の怪我の防止、踏圧によってサクラの根が傷むのを防止する役割があります。
 
今回は土壌改良をすることで、発根を促しサクラ自身で回復するようにする施術を行いました。
 
固まった土壌を掘り起こすことで土壌が柔らかくなり根が伸びやすくなりました。
土壌改良材を入れた土を戻すことで根の発育が良くなると考えられます。
 
樹木は上部の枝葉と根のバランスを取って成長しています。
根が元気になれば、上部も元気になりサクラ自身が元気になることでしょう。
 
これからもこのサクラが園児たちを末永く見守ってくれるよう、支えていきたいと思います。
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.51

街路樹診断について(樹木医 北 和俊)
 
今回は街路樹診断について。
 
道路沿いに樹木が植えられていると思いますが、その樹木たちを街路樹といい、樹木医により定期的に樹木診断を行っています。
 
樹木の健康診断と思っていただけたらわかりやすいかと思います。
 
倒木や枯れ枝が落ちてきて人や建物、車などに当たり事故や怪我が発生しないようにすること。
枝が張り出して通行の邪魔にならないようにすること。
そのような観点から診断を行い、問題があれば緊急度に応じて対応をします。
 
基本的に県道は県でその他の道に植えられている街路樹は市区町村の管轄になります。
よって依頼主は県や市などです。
 
さて、では実際どのようなことを行っているのでしょうか。
 
 
①基本データ調査
①基本データ調査
 
・樹種
・樹高(木の高さ)
・枝張り
・全景写真等
 
一本一本すべての樹木に個体番号を付けます。
そして基本データを取りカルテに記録します。
 
打診音調査
②打診調査
 
木槌で叩き内部が空洞化していないか確認します。
 
空洞がない樹木と空洞のある樹木では明らかに音が違います。
範囲と深さによっては樹木が倒れてしまう恐れも有ります。
危険と判断された場合は精密診断を行ったり、伐採をしたりする場合があります。
 
鋼棒陥入調査
③鋼棒陥入調査
 
鋼棒という鉄で出きた棒を根元に突き刺し、根元に異常がないか確認します。
確認する内容は
 
・根周りの地盤の柔らかさの確認
 根周りの地盤の柔らかさを確認し、しっかり根が張れる土壌か確認します。
 
・根元の腐朽の有無の確認
 根元に腐朽が起きていないか、キノコなどが発生していないかを確認します。
 根元が腐朽していると倒木の恐れも出てくるので、慎重に場所を変えて何度も突き刺します。
 
上記調査以外にも、不自然な傾きはないか、枝葉の育成は健全か、虫、病気は発生していないか等々確認をします。
 
そして、それらデータをまとめ報告書を作成するのです。
報告書作成もなかなか手間のかかる作業で、提出期限近くになると作業が夜遅くまで続くことがあります。
 
晴れて依頼主である県、市区町村に届けられた報告書により、異常のあった樹木は治療、伐採、植え替えなどの対応がなされるのです。
 
日頃、樹木医の仕事を目にする機会は少ないと思いますが、このように、皆さんの安全な市民生活を守る街路樹診断も樹木医の大切な仕事のうちの一つなのです。
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.50

マツノザイセンチュウについて(樹木医 関 隆夫)
 
11月初旬に藤沢の県道沿いに植えられていたマツの伐採を行いました。
樹高が10m以上もある立派なマツでしたが残念ながら枯れてしまったのです。
事前に調査し、マツノザイセンチュウがその原因であると判明しての作業でした。
 
皆さんの周りで急にマツが枯れてしまったことはありませんか。
大きさに関係なく、このマツノザイセンチュウに寄生されると、瞬く間にマツは枯れてしまうのです。
そのスピードたるや!『あれ、葉が茶色になってきたな』と思っていると夏場だと1か月ぐらいで全体が枯れて手の施しようがなくなるのです。
何とも恐ろしい病害虫です。
 
今回はその正体を画像でお見せし、枯れるまでのメカニズムを少しお話したいと思います。
枯れたマツ
今年の夏に、急に県道沿いのマツが枯れました。
 
依頼を受け、マツノザイセンチュウの疑いがあるためサンプルの木片を採取し、弊社で検査しました。
 
 
 
ベールマン法による抽出
ベールマン法という抽出方法で抽出し、デジタル顕微鏡で確認しました。
写真のようにペットボトルとコーヒーフィルターを使用すると簡単に抽出キットを作成できます。
マツノザイセンチュウは枯れたマツの中に充満しているため、マツノザイセンチュウが原因で枯れたのであれば、抽出は可能なのです。
 
 
さて、抽出検査の結果は・・・
 
出ました!!!!
下の画像をご覧ください。

マツノザイセンチュウ 画像

このニョロニョロ動いているのがマツノザイセンチュウ(マツの材線虫)です。
成虫の体長は1mm程しかなく、肉眼で確認するのは難しい、その名の通り線虫です。
 
やはり、このマツはマツノザイセンチュウが原因で枯れたのです。
 
では、この体長1mmにも満たないセンチュウがいかにして、巨大なマツを枯らすのか簡単に説明していきたいと思います。
 
まずは、どのようにマツに侵入するのか。
 
マツノザイセンチュウは画像のニョロニョロが成虫です。
それ以上変態しません。ですので単体で移動はできません。
 
マツノザイセンチュウはカミキリムシを移動手段に利用するのです。
 
マツノザイセンチュウはカミキリムシに寄生します。
寄生されたカミキリムシが産卵のため樹皮に穴をあけ侵入します。
その時に新しいマツに侵入するのです。
 
次にどのように枯らすのか。
 
マツノザイセンチュウは寄生したマツの中で爆発的に増殖します。
そして、水を吸い上げる機能を持つ仮道管を詰まらせることにより、マツは通水障害を生じ、枯れるのです。
 
マツは増殖したザイセンチュウに材を食い荒らされて枯れるのではなく、組織が破壊され、死細胞から漏出した物質により仮道管の閉塞、機能不全で枯れるのです。
 
メカニズムの詳細を語りだすと、短編小説ぐらいのボリュームになってしまうので、この辺で終わりにします。
 
残念ながら今のところ、カミキリの侵入からマツノザイセンチュウの病害に対する完全な防除方法は確立されていません。
カミキリは弱ったマツに寄生するので、マツを弱らせないことが重要であると考えられますが、なかなかその判断は難しいと思われます。
マツノザイセンチュウが入ったマツはマツヤニが極端にでなくなるので、早期発見のある程度の判断基準にはりますが、入ってしまったマツを救う手だてはないのです。
今回伐採したように、マツノザイセンチュウが検出されたマツは伐倒、焼却処分し広がりを防ぐ必要があります。
 
大切なマツにマツノザイセンチュウが入り込まないように、土壌改良や定期的な手入れをし、マツを元気にしておくことが重要です。
 
今後、科学技術の進歩によりマツノザイセンチュウに対する対処方法が確立されるのを期待しています。
 
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.49〜

台風による倒木被害について(樹木医 関 隆夫)
 
今夏は西日本を中心に、全国的に豪雨災害や台風による人や建物に対する甚大な被害が発生しました。
樹木に関しても、倒木や塩害などで大変な被害を被り、弊社も9月一杯、その対応に追われました。
 
そこで、今回は台風による倒木の考えられる原因について考察してみたいと思います。
 
気象庁の資料によると、風速24.4~28.4m/sで樹木は根こそぎ倒れるといわれています。
ちなみに台風21号の最大瞬間風速は和歌山市で57.4m/s、関西国際空港で58.1m/s、東京の都心で26.8m/sでした。
 
しかし、いくら台風がすごいと言っても全ての木が倒れるわけではありません。では倒れてしまった木は何故倒れてしまったのでしょうか。
 
考えられる原因は主に3つあります。
①無剪定による倒木
①無剪定による倒木
 
剪定されていない樹木は風が通り抜けず、直接風の影響を受けてしまい、その風圧に耐え切れずに倒れてしまったのです。
庭の生垣に用いられるコニファー等の葉の密度の濃い樹木にこのケースが多く見られます。
キノコによる腐朽
②内部腐朽による弱体化
 
枝折れや、虫害など、何かしらの原因で樹木が病気や菌に侵され、木質が腐朽し樹木の強度が弱まっていた。
そこに強風が吹き、風圧に耐えられず倒れてしまった。
浅い根による倒木
③浅い根による倒木
 
写真の樹木は15m以上もあるタイサンボクです。
ご覧頂いてわかるように、根が平坦で支えになるような下に伸びる根(直根)がほとんど見られません。
これは植えられている場所の地盤が岩盤になっており、その上に客土された非常に根が張りにくい場所に植えられていたのです。
この他にも、都心部などはビル風の影響で一か所に風が集中してしまいその風圧を受けてしまったり、地盤が弱く雨水の影響で根が耐えられなかったり、と様々な要因が考えられます。
 
今回の台風での倒木の多くは、それら原因が複合的に影響しあったものだと考えられます。
 
ニュースの映像や、実際に倒木にあってしまった方は、こんなに大きな木が倒れてしまうのか、と驚きまた、同時に危機感を覚えたのではないでしょうか。
支柱をする、剪定をし風を抜けやすくする、樹木内部の腐朽率を調べ、倒木の危険度を知り対応策を考えるなど対策はあります。
もし身近に心配な樹木があれば一度相談されてもよいかもしれません。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.48〜

ハルニレの樹木診断(樹木医 高野 絵理奈)
 
ある神社に植えられているハルニレを定期診断をしています。
 
主に地上部により外観診断をおこなったのですが、樹勢についておおむね健全という診断結果が出ました。
ただし、地上部から判断しきれない上部に対して高所作業車を使用しての診断をご提案させて頂きました。
神社のハルニレ

 

ここで一つ気になることがあり、お話したいと思います。
このハルニレは以前ニレチュウレンジというハバチが大量発生し食害を受けました。そのため神社は対策として防虫シートを施工し、毎年、業者による薬剤散布を行い発生を抑えている状況です。

 

さて突然ですが、皆さんはワカケホウセイインコというインコをご存知でしょうか。このインコは外来種でペットとして飼われていたものが逃げ出し、自然増殖しているようなのです。カラスを一回り小さくしたぐらいの大きさで、草食ではあるのですが、性格が凶暴で日本の在来の鳥たちを攻撃し追い出しているというのです。

 

実はこの神社にはこのワカケホウセイインコがたくさん生息しています。

このワカケホウセイインコが増殖した時期と、ハルニレにニレチュウレンジが大量発生した時期がどうやらリンクしているらしいのです。

ワカケホウセイインコ

簡単にまとめると、

 

①飼われていたワカケホウセイインコが逃げ出し、増殖した。

②ワカケホウセイインコは住処を確保するため、神社にいた昆虫を食べる在来種の野鳥を追い出した。

③捕食者である野鳥がいなくなった為、食物連鎖のバランスが崩れニレチュウレンジが大量発生してしまった。

 

というロジックです。

これはあくまで仮説にすぎないのですが、少なからずその影響はあるのではないかと考えています。

 

この事例にみられるように、樹木医は木のことだけを見ていては正確な診断や対処方法は得られないということです。

 

木を見て、森を見て、昆虫をみて、地域社会を見て、牽いては世の中の動き、人々の生活の動向まで視野にいれて考察しなければならないと再認識しました。

 

今後も広い視野を持って、幅広い知見の元診断を行っていきたいと考えています。

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.47〜

サクラの樹勢回復(樹木医 北 和俊)
 

 

これは以前紹介した弊社で管理している公園内のサクラの根の写真です。

 

数年前より枯枝が増えてきた影響で開花の数も少なくなってしまいました。

原因を調査していた所、この様な状況の根を発見し、根の凸凹の正体を判明すべく病理鑑定に出しました。

 

その結果、根の凸凹はネコブセンチュウという体長1mm以下のウナギ型の微細な生物の仕業と判明しました。

 

このセンチュウ類の仲間に対する防除法は幾つかありますが完全に除去することは難しく、

根の処置は今後、解決せねばならない課題の一つとして悩まされそうです。

2017年6月
2018年6月

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.46

シラカシの樹勢回復(樹木医 高野 絵理奈)
 

 

今回は、樹木医日記No.40でご紹介したシラカシの余盛除去処置後の経過報告をさせていただきます。

 

処置後一年を経過しての写真です。

左と右を見比べてみてください。

 

明らかに新しい枝が内側から吹いているのがわかります。

また、葉の大きさ、色、艶もよくなっています。

このように、しっかりと木の生理に則した樹木治療を行えば、植物たちはそれに応え、自分の力で元気を取り戻していきます。
 
大前提として、樹木が健全に育つことのできる植栽、剪定をしなければなりません。
樹木、植物たちに関わるものとして、その責任を胸に今後も取り組んでいかなければならないと感じています。
 
このシラカシは今後も経過観察を続けて行き、また成長の過程をご報告したいと思います。

樹木医日記~木々との語らい~No.45~

ソメイヨシノの剪定(樹木医 高野 絵里奈)
 

 

今回は、以前から樹勢回復を行ってきたソメイヨシノについての報告です。

 

このソメイヨシノは、地域のシンボルとして、市の天然記念物に指定されています。

 

冨田樹木医が依頼を受けてはじめて伺ったときは、深植えによる樹勢衰退が確認され、キノコもたくさん出ている状態だったそうです。

 

現在は、余盛りの除去、土壌改良、キノコの殺菌などの定期的な治療により、樹勢が回復しつつある状態です。

ふところからでた新しい枝もだいぶ大きく成長してきました。

今回の剪定は、その新しい枝に光を当てて育成をすることを目的として行いました。

どうか、うまく育ってくれますように。

 

今後も定期的な治療と経過観察を続け、このソメイヨシノの回復を見守っていきたいと思います。

 

樹木医日記~木々との語らい~No.44~

フジの瘤病治療 (樹木医 北 和俊)
 
今回はフジの瘤病治療についてお話します。
フジの幹にボコボコとこぶのようなものを見かけたことは無いでしょうか。
これは細菌が引き起こすこぶ病です。
 
初めは小さなこぶが出来、それが次第に広がり、どんどん大きくなっていきます。
大きくなったこぶの内部は腐敗空洞化して枝枯れ・幹枯れを引き起こし樹勢を衰退させます。
対処法は鋭利な刃物でこぶを切除し、切り口に癒合剤を塗るという方法が一般的です。
 
今回報告するフジの治療法として別の方法をご紹介します。
以下写真をご覧ください。

フジこぶ病写真

2013年10月
2018年2月
定点観測している患部です。
こぶの成長・進行が抑えられ、黒く変色していることがわかります。
これは尿素を定期的に患部に散布するという治療法です。
完全に確立された治療法ではないのですが、効果は得られていると考えられます。
 
なんとしてもフジの回復を願う、その思いで様々な治療法を試し最善を尽くします。
樹木医として最大限の努力と愛情を注ぐことが最も大切なことだと考えています。
 

樹木医日記~木々との語らい~No.43~

異形なるもの (樹木医 北 和俊)
 
ある現場で、ツバキの枝に普段見かけないものを見つけました。
通常のツバキの葉とは似ても似つかないものです。
これはヒノキバヤドリギという寄生植物です。
皆さんはご覧になったことはあるでしょうか。
宿木、寄生植物という名前からもわかるとおり、他の樹木に寄生し成長します。
種子が鳥によって運ばれ、糞と共に排出されます。
運よく木の枝等に糞が落ちると、粘着性のある種子はそこで発芽し寄生生活がスターするのです。
 
寄生されるとその枝は衰弱し枯れてしまうことが多く、また、一本の樹木が多くのヒノキバヤドリギに寄生されてしまうと樹木自体の生育が衰弱してしまうケースがみられ、最悪の場合枯死してしまいます。
 
樹木の弱体化を招く植物ですので、見つけ次第駆除するのが望ましいです。
今回のツバキも寄生された枝をしっかりと切り取り、駆除しました。
 
色々な戦略で覇権争いをする植物たち、勇ましく、賢く、感心してしまいます。
 
 

樹木医日記~木々との語らい~No.42~

幹に空いた謎の穴 (樹木医 北 和俊)
 
今回は弊社で管理している店舗のサクラを紹介します。
このサクラは、店舗南側歩道内の植栽帯に植えられている6本中の1本です。
地際付近に径10cm前後の穴が空いているとの通報を受け、調査してきました。
調査結果、以下の4点が被害として確認されました。
 
・樹冠部に枝枯れが生じている。
・一部の葉が小型化している。
・地上2mと7m付近にキノコが発生している。
・地際に径10cm程度の穴がある。
上記のような状態に陥った原因は、おそらく根からの腐朽によるものと考えられます。
 
ルートカラー(根と幹の境)が確認できないので、深植えの可能性が高い。
このため、根の生育不良も疑われる。根の生育不良が腐朽菌の侵入を許す要因となったとも考えられる。
腐朽部分を健全な状態に戻すことは不可能なので、これ以上腐朽を拡大させないための対策を講じ、樹勢をこれ以上悪化させないようにしていきたいです。
 
枝枯れ部
小型化した葉
発生したキノコ
地際の穴
 
 

樹木医日記~木々との語らい~No.41~

樹木医の仕事 (樹木医 北 和俊)
 
今回は樹木医の仕事について、ある公園のサクラの事例をもとに少しお話します。
 
 
このソメイヨシノの大木は公園のシンボルツリー的存在になっています。
桜の季節には沢山の見物客がお花見に訪れます。
 
そんなソメイヨシノですが年月の経過とともに枝や幹に様々な傷みが生じていました。
調査してみるとキノコの発生、梢端部の枝枯れ、葉の小型化等が観察できました。
樹勢回復の手段は様々考えられます。土壌改良、エアレーション、根回りの踏圧防止柵の設置等々。
この公園におけるソメイヨシノの位置づけ、意味合いなどを考慮し、樹勢回復の手立てを取ることが出来たらと思います。
 
このサクラを管理している関係の方に、このソメイヨシノの現状分析と改善策を報告書にて提案させて頂きました。
予算の問題など、乗り越えなければならない課題は多々ありますが、長年この公園を見守って来てくれたソメイヨシノのためにも、このソメイヨシノを楽しみにしている利用者のためにも、良い方向に向かってほしいと願っています。
 
言葉を発せられない樹木たちに代わって、現状を伝え、将来に向かって改善提案をしていくこと、それも樹木医の大切な仕事のうちの一つなのです。
 

樹木医日記~木々との語らい~No.40

樹木の酸欠 (樹木医 高野 絵里奈)
 
樹木が生活をするためには、実はたくさんの酸素が必要です。
樹木は二酸化炭素を吸って、酸素を出してくれる生き物というイメージが強いので、意外なことと思われるかもしれません。
私も樹木医の勉強をするまでは知りませんでした。
今回は、樹木の根が起こす酸欠についてお話しさせて頂きます。
 
樹木の根は、深く植えすぎたり(図1)、植えた後にたくさんの土を根元に盛ったりする(図3)と酸欠を起こしてしまいます。
土の浅い所には酸素はたくさんありますが、深い所では酸素は少なくなるため、酸欠を起こしてしまうのです。
酸欠を起こすと根が弱ってしまい、時には根が腐ってしまったり、樹勢が衰退してしまう可能性があります。
中には、この状況を切り抜けようと頑張る樹木(図4)もいます。
元の根よりも高い位置から新しい根を出して、浅い所の酸素を取り込もうと頑張ります。
樹木が新しい根を出すときにはたくさんのエネルギーを使うので、早めに対応をして、樹木の負担を軽減してあげましょう。
 
今回の調査対象になっていた樹木は、多く盛られた土を除去し、経過観察を行うことにしました。
 
*周辺の環境や樹木の状態によっては深く植えた方が良い状況もあります
 
図1
図2
図3
図4
苦しくて、二段根が出ている様子
深植え状態

樹木医日記~木々との語らい~No.39

フジの異変 
 
今年もフジが随所で美しい花を咲かせてくれていました。
フジの名所に見に行かれた方も多いのではないでしょうか。
 
ところが、
「今年のフジは花が短いな・・・」
「もう少しで咲きそうなのに、蕾のまま落ちてしまう・・・」
こんな呟きを耳にする機会がいくつかありました。
 
いつもとはちょっと違う感じのするフジ、皆さんの周りにありませんか。
フジツボミタマバエが寄生して膨らんだ蕾
蕾のまま花が開かないフジの房
フジの房はあるのに花が短い、花が咲く前に蕾が落ちてしまう。
こんな症状がみられたら要注意です。
それは、フジツボミタマバエの仕業 かもしれません。
 
フジツボミタマバエはフジの蕾に産卵します。
幼虫は充実した蕾の中で孵化し、咲く直前の蕾を内部から食い荒らします。
結果、花は咲かず、蕾のまま地面に落ちてしまうのです。
 
 
枝折れや剪定で傷ついた枝は、
中心に向かってカルスを巻きます。
長い年月をかけて樹皮で覆い完治。
地面に落ちてしまったフジの蕾
落ちた蕾を割ってみると、次々と蛆虫が・・・
この松は患部の腐朽が進み、空洞化が随所に見られます。
この状態だと松自身の力だけでは穴を塞ぐことは難しく、また出来たとしても途方もない時間が必要になります。
今のままでは、更に腐朽が進み穴が拡大し、枝や幹の強度低下が懸念されます。
 
丹精込めて育てたフジが咲かない、弱っていく、そんな姿は見たくありません。
しかし、残念ながら今のところ確実な対処法は確立されていないようです。
 
弊社では、ある程度発生を抑制するための処置を行い改善が見られた事例がありますので、
もしそのような症状のフジがあれば 一度ご相談頂ければと思います。
 

樹木医日記~木々との語らい~No.38

クロマツの樹勢回復処置 (樹木医 高野 絵里奈)
 
北樹木医が樹木医日記No.31、35で紹介したクロマツの樹勢回復処置について引き続きご報告します。
 
400年以上もの間、この土地の歴史を見守ってきたクロマツです。
様々な自然現象で枝折れ等により沢山の傷が出来てしまいました。
この様な傷は放置しておくと患部から腐朽が入り枝・幹を腐らせて行きます。
実際このクロマツの中心部は空洞化が進んでしまっている状態なのです。
よって今回の処置は、枝折れ等によってできた空洞部分を珪藻セラミックで蓋をし、クロマツ自身の治癒力で穴を塞ぐ手助けをすることを目的としています。
 
樹木は、下のイラストのように、折れたり切られたりした部分からカルスという癒合組織を作ります。
カルスは分裂・増殖を繰り返して樹皮に分化し傷を修復するのです。
 
今回の治療は、下のイラストのように空洞化してしまっている枝を珪藻セラミックで塞ぎ、カルスで傷を塞ぎやすくする手助けを行おうという訳です。
 
 
傷んで空洞化した枝を、
切断し直します。
下地とパテで傷口を埋めます。
カルスが成長し傷を塞いで完治します。
before
after
チェーンソーを使い患部を整え、パテで穴を埋めます。
さあ、これで処置完了です。穴の開いた患部が埋まりました。
これで腐朽の進行にブレーキを掛けられるはずです。
後はこのクロマツの治癒力に委ねることになります。
老木でもあり、患部が完全に樹皮で覆われるまでにはどれほどの年月を要するかは分かりませんが、きっと自身の力で傷を癒して行ってくれることでしょう。
今後も経過観察をし、見守って行きたいと思います。
 
最後に今回の作業では27ⅿの高所作業車を駆使しての作業となりました。
見晴らしは抜群でしたが、遮るものも何もない上空は風も強く、揺れと寒さで大変な作業でした。
しかし、この巨松はこんな過酷な状況でも400年以上ずっと人々の生活を見守ってくれていたと思うと、なんだかとても愛おしく、感謝の気持ちで一杯になりました。
これからも末永く生き続けてくれることを願います。
2.まずは掘り取り
 
まずは根鉢周りの土を掘り取り、根に着いた土が落ちないように根巻き作業を行います。
細根がしっかり出ているか、ちょっとドキドキしながらユンボを動かします。

樹木医日記~木々との語らい~No.37

 
ナウシカになりたくて(樹木医 高野 絵理奈)
 
厳しい試験を乗り越えて試験に合格し、樹木医になりました。
小さい頃から風の谷のナウシカが好きで、いつかナウシカみたいになりたいと思ったことが樹木医を目指したきっかけです。
樹木医試験に向けての勉強は教科書の解読からでした。教科書はとても難しく、用語をインターネットや別の本から調べなければ読むことができませんでした。例えば、葉序。これは葉っぱの付き方の事なんですね。
1次試験の筆記テスト突破後は、2週間の勉強合宿の様な2次試験が待っていました。前日に講義や実習で行った事を翌日の朝にテストされるので、夜も安心して寝ることができませんでした。
そんな試練も樹木が好きという気持ちと周囲の方の支えでなんとか乗り切る事ができ、無事に合格することができました。
これからは、3人の樹木医の先輩方からご享受頂き、樹木と人の関係をより良くできる樹木医を目指して頑張ります!
テキスト
参考資料

樹木医日記~木々との語らい~No.36

巨大シダレザクラの移植(樹木医 北 和俊)
 
シダレザクラの移植作業について報告します。
今回移植したシダレザクラは高さ約8.5ⅿ、幹周約1ⅿとかなり大きなものです。
 
1.10ヶ月前に「根回し」を行いました
 
移植を行うにあたり予め準備するのが「根回し」という作業です。
当HPの「植木屋の女房№40」で10ヶ月前のこの時の様子を紹介しています。
 
造園業で行われる”根回し”とは、移植の数ヶ月前に根を切断することで細根の発生を促し、
移植先で根を活着しやすくさせる作業のことです。
 
細根が発生するまでには約半年から1年以上を要するため、予めそのような作業が必要になります。
大きな木の移植には、事前に入念な準備が必要なのです。
日常的に使われる”根回し”という言葉の語源となる仕事です。 
3.ドキドキドキ・・・、細根は? 
 
見てください! 細根、確認できました。
ちゃんと根回しの効果が表れています。移植先での健やかな成長が期待できます。
細根写真1
細根写真2
4.次は根巻き作業
 
皆で息を合わせて緑化テープ、緑化縄を巻き付けます。
ポイントは縄の緩みが出ないようにすること。
根鉢を崩さないようにすること。
 
丁寧に綺麗に根巻きできました。
5.さぁ!積み込みです
 
この規模の移植の場合、人力では到底及ばないため、大型重機を使います。
ラフタークレーンを駆使し、木を傷めないように、かつ周囲の安全に最大限注意して積み込みます。
根鉢を崩さないように、吊り具で固定します。
移動するときに枝が折れてしまわないように、剪定したり枝を縛る作業を行います。
5.今回の移植は移動がもっとも大変でした
 
移植先は300mほと離れたところで、近いのですが、
両脇に電信柱と生垣があり、非常に狭い道を通る移動でした。
N君いわく「死にそうだった」。
この過程の写真がないので紹介できませんが、極度の緊張感の中での仕事でした。
 
再びクレーンで吊り上げ、丁寧に植え付けます。
角度や正面を見極め、微妙な調整を行い、水極めをし、支柱を設置して移植完了です。
 
4月の上旬の開花、その後の新葉の展開が見られれば、根が順調に活着したとみなせます。
2か月後の花を楽しみに待ちたいと思います。
この先に、狭い道の難所が待ち受けていました。
再びラフタークレーンで吊り上げます。
角度にも拘って丁寧に植え付けます。
移植完了。お疲れさまでした。
 
 
 

樹木医日記~木々との語らい~ No.35

クロマツノ樹勢回復(樹木医 北 和俊)

 6か月ほど前に菌根菌治療を行ったクロマツがあります。菌根菌とクロマツの根との共生関係が良好な兆候として、キノコが発生したという事例があるので、その確認も含めて経過観察に訪れてみました。
根周りの菌根菌治療を行った場所をみてまわると、5か所にキノコを確認できました。(写真1)
菌根菌とクロマツの根との共生関係が良好な兆候はみられましたが、6か月前の状態と比べて枝葉の量はそれほど増加しているとは言い難い状況です。(写真2)
今年の春から伸びてきた枝は、前年に作られた芽から展開した枝葉なので、菌根菌治療の影響がでてくるのは、今年作られた芽が展開する来年以降ではないか、と考えます。
今後、さらに枝葉の量が増加、樹勢が上向くことを期待し、観察を続けていきたいと思います。
 

樹木医日記~木々との語らい~ No.34

カエデの異変(樹木医 冨田 改)

紅葉の季節が始まっております。

その年の気候とも関係しますが、今年の紅葉はどうだろうか。 

紅葉の代表的な木はカエデの仲間ですが、近年、紅葉が始まる前に落葉してしまったり、

葉が褐色に変色してしまったりと残念な結果となっています。 

 

皆さまの周りにはこんな現象は出ておりませんか。

これは明らかに病気です。

もしこのような症状が出ているようでしたら専門家に診てもらい、対処が必要です。

黒紋病、うどんこ病、首垂細菌病等、原因は様々考えられます。

お早目にご相談下さい。

 

写真1
 
写真2(左記、赤丸部のキノコ)
 

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.32

山下公園 土壌調査研修会(樹木医 関 隆夫)

〈山下公園 土壌調査研修会〉
横浜市と樹木医会神奈川県支部の共催で行われた研修会を紹介します。横浜市の山下公園の一角で横浜市の職員と神奈川樹木医会会員の総勢60人が植栽基盤調査の研修をおこないました。
今回の研修の目的は土壌調査の実習はもちろんですが、樹木医の仕事を横浜市職員の方々に知ってもらうことにあります。
まだまだ樹木医の認知度は低いと思われるので。
 
植栽基盤の調査に使う器具は、長谷川式土壌硬度計、長谷川式透水試験器、長谷川式検土丈、山中式硬度計等があるのですが、それらすべての使い方の研修をおこないました。
当社がユンボを使って観察用の穴を掘ったり参加者を誘導したりして、研修会のお手伝いをしました。
山下公園は関東大震災の時のがれきを埋め立ててその上に作った公園です。
今回の研修では深さ1mの観察用の穴を掘りましたが、その深さではまだ当時のがれきはでできませんでした。
後で資料を調べたら震災がれきがあるのは現在の地盤より5m下だそうです。
 
興味深かったのは検土丈を使って土壌のサンプルを採取した時のことです。深さ2.5mぐらいで水が出てきました。
しかもその水は塩水でした。近くの岸壁へ行って地上から海水面までの高さを測るとぴったり2.5mでした。
もしかすると山下公園の土壌は厚さ2.5mぐらいで、海水がしみ込んでいるのかもしれません。
公園の樹木は高さ10mを越えているものもありますので地盤の厚さが2.5mあればその大きさまでは育つということでしょうか。
写真1
写真2
私と当社の北樹木医(右)

樹木医日記 ~木々との語らい~ No.31

クロマツの樹勢回復作業(樹木医 北 和俊)

〈クロマツの樹勢回復作業〉
今回はクロマツの樹勢回復について取り上げます。このクロマツは樹令420年、高さ27.7m、幹周り5.62mの堂々たる容姿の樹木です(写真1)。
近年、樹勢の衰退が目立つようになってきたため、樹勢を向上させるべく菌根菌と肥料を用いた治療作業を行いました。
菌根菌とは、植物と共生関係にある菌類(キノコ・カビ類)のことです。アカマツ林に発生するマツタケも菌根菌の一種です。
菌根菌が根につくと、菌糸が、マツの根が届かないところまで広がり、マツは養水分を効率的に吸収できるようになります。
肥料は、モリブデンという微量要素を配合しているもの使いました。モリブデンは植物の生育に必要なエネルギーを作り出す回路になくてはならない成分です。掘削には、空気の力で掘削ができるエアースコップを用いました(写真2)。これを用いることで、根を傷つけることなく掘削できるようになります。エアースコップを用いてマツの根を探り出し、上記の資材を施用しました(写真3)。
今回の治療作業により、樹勢が回復し、地域のシンボルとなっているこのクロマツが末永く生育し続けていくことを願います。
写真1
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